1. ギャンブル依存症で嘘をついてしまう背景

1-1. 経済的な苦境や負債

ギャンブル依存症の最も大きな問題の一つは、借金や家計の圧迫です。負債がある状態でありながらギャンブルを続けると、精神的にも追い込まれます。家族や親しい人にお金を借りる、あるいはサラ金から借金をするなど、「とにかくお金が必要だ」という状況から、“隠さなければならない事実”が増えます。そこから嘘に嘘を重ね、周囲をだましてでもギャンブル資金を確保しようとする悪循環が生まれます。

1-2. 恥と罪悪感

「こんなに負けてしまった」「またギャンブルをやってしまった」という罪悪感や、周囲からの批判を恐れる気持ちが嘘を誘発します。弱っている状態で「正直に言ったら責められる」「信用を失う」と思い込むと、短絡的に嘘で切り抜けようとする場合が多いのです。

1-3. 取り戻したい心理

ギャンブル依存症では「負けを取り戻したい」という思いが非常に強く、感情が先走りしがちです。負けを取り返すためにさらにお金をつぎ込むが、結果はさらに負けが増える、というスパイラルが続きます。その過程で「次こそは勝つ」「もう少しプレイすれば逆転できる」といった誤った思考に支配され、「今嘘をついてでも資金を工面しなければならない」と思い込むことがあるのです。


2. 嘘をつかないようにするための具体的な方法

2-1. 専門機関・専門家への相談

まず大切なのは、ギャンブル依存症は“心の病”であり、自力だけではコントロールが難しい場合が多いと認識することです。専門のクリニックや依存症治療に精通した医師・カウンセラーを受診することが、嘘を手放すための第一歩になります。専門家に相談することで、

  • 本人がどのような心理状態で嘘をついているのか
  • どのようなサポートや治療プログラムが必要なのか
    を整理し、嘘を繰り返してしまう根本原因を見つけられます。

2-2. 金銭管理の「透明化」

ギャンブル依存症者の嘘の大半はお金の問題に起因しています。そこで、可能な限り家族のサポートを受けながら金銭管理を「透明化」することが重要です。

  • 収入・支出を家族など第三者に見せる
  • ATMカードやクレジットカードを預ける
  • ギャンブル資金に使えるお金を持ち歩かない
  • 目的別に口座を分ける(生活費、貯金用など)
    これらの取り組みは、自分が嘘をつかざるを得ない状況を減らす効果があります。

2-3. 嘘をつく必要のないコミュニケーション環境づくり

嘘が多発する背景には、本人の“追いつめられ感”があることを意識しましょう。家族や周囲の人は頭ごなしに「また嘘をついて!」と責めるのではなく、「どうして嘘をついてしまったのか」「今何が苦しいと感じているのか」を落ち着いて聞き出す姿勢が大切です。

  • 責める口調ではなく、まずは気持ちを受け止める
  • 話しやすい雰囲気をつくる、遮らずに最後まで聞く
  • 理解されていると感じれば、本人も正直になれる
    本人が「正直に言っても非難ばかりされる」と思うと、再び嘘をつくことでしか自己防衛できなくなります。

2-4. カウンセリングや自助グループの活用

嘘をつかずに済むようになるには、根底にある問題(自己肯定感の低さ、孤独感、ストレス耐性の弱さなど)に気づき、その改善に向けた取り組みが必要です。そこでカウンセリングや自助グループ(GA: ギャンブラーズ・アノニマスなど)に参加することで、自分と同じような悩みを持つ仲間の体験や学びから力を得ることができます。また、同じ問題を抱える人の話を聞くことで、「自分だけがおかしいわけではない」という安心感も得られ、嘘を重ねずに素直に話せるようになる可能性が高まります。


3. 家族や周囲のサポートのポイント

3-1. 責めすぎない

家族や友人も騙された側としては感情的になることがありますが、責めるだけでは逆効果です。相手を追い詰める言葉や態度は、かえって嘘を誘発してしまいます。あくまでも「あなたと一緒に解決したい」というスタンスで接することが、本人が嘘から抜け出すサポートにつながります。

3-2. 境界線をはっきりさせる

「責めない」ことと「甘やかす」ことは違います。嘘を認めない、借金の肩代わりをむやみにしないなど、家族や周囲が守るべき線引きはしっかり設ける必要があります。曖昧にしてしまうと、ズルズルと嘘や借金が繰り返されてしまうケースが多くなります。

3-3. 本人の変化をサポートし、称賛する

小さな変化や努力であっても、嘘をつかずに打ち明けた事実や自分から相談をしてきた姿勢などは積極的に評価し、称賛しましょう。ポジティブなフィードバックを得られることで、本人は「正直でいることは悪いことではない」という実感を得やすくなります。


4. 嘘をつかなくなるための心の姿勢

4-1. 自己開示の練習

「嘘をつく」癖がついている人は、正直に言うと怒られる・責められるという恐怖心が抜けません。しかし、カウンセリングや家族とのコミュニケーションの中で、少しずつ小さなことから正直に伝え、相手の反応を確かめる訓練が必要です。何度か「正直に話しても、意外と大丈夫だった」という経験を積むと、嘘をつく必要性を感じなくなっていきます。

4-2. 自己肯定感の回復

ギャンブル依存症になる人の多くは、ストレス解消や現実逃避の手段としてギャンブルを選択し、そこから抜け出せず自己否定感が強くなっていくケースが目立ちます。自己肯定感が低いと、嘘をつくことでしか自分を守れなくなることが少なくありません。

  • 適度な運動や趣味を始める
  • 身近な成功体験や小さな達成を振り返る
  • カウンセリングや心理療法で過去のトラウマをケアする
    などを通じて、自己肯定感を少しずつ高めていくことが大切です。

4-3. 自分の感情と向き合う

嘘を重ねる背景には、ギャンブルで負けた悔しさ、借金を抱えた恐怖、周囲への後ろめたさなど、さまざまな感情が絡み合っています。それらの負の感情を丁寧に見つめ直し、言葉にしていくプロセスは嘘からの解放につながります。

  • 日記やメモにそのときの感情を書く
  • 誰かに聞いてもらう(カウンセラー、家族、友人)
  • 感情を認め、否定しない
    「今こんな感情を抱えているんだ」と把握できるだけで、嘘で取り繕わなくても良い気持ちが少しずつ育まれます。

5. まとめ

ギャンブル依存症の方が嘘をついてしまう背景には、経済的負担や負けを取り戻したいという切迫感、罪悪感や恥といった複雑な感情が深く関わっています。嘘をやめられないことでさらに状況が悪化し、依存症からの回復が遠のいてしまうケースも珍しくありません。

嘘をつかないためには、まず専門家に相談して依存症という病気を正しく理解し、金銭管理の透明化や自助グループへの参加、家族や周囲の環境づくりなど、多角的なアプローチが必要です。嘘を責め立てるのではなく、本人が正直になれるようなサポート体制と、本人自身の「正直に向き合いたい」という意識の両方が不可欠です。

嘘を手放すことは決して簡単ではありませんが、少しずつ正直に話し、受け止められる経験を重ねることで、人間関係や自己肯定感も回復に向かいます。ギャンブル依存症からの脱却は、嘘をつかずに現実に向き合うことから始まります。一人で抱え込まず、専門家や家族・友人のサポートを得ながら、一歩ずつ前進していきましょう。

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