ギャンブルにのめり込み、生活や人間関係に深刻な悪影響があるにもかかわらず止められない——いわゆる「ギャンブル依存症」は、国内外の精神医学において正式に“病気”と位置付けられています。自分の意思があってもコントロールが難しくなり、借金や家庭・職場でのトラブルを招いてしまう深刻な問題ですが、きちんと治療やサポートを受けることで回復は可能です。本記事では、ギャンブル依存症の医学的な定義や特徴について解説します。
1. ギャンブル依存症の医学的定義
1-1. DSM-5(アメリカ精神医学会)
アメリカ精神医学会が策定する精神障害の診断・統計マニュアル「DSM-5」では、ギャンブル依存症を 「Gambling Disorder(ギャンブル障害)」 として分類しています。DSM-5における診断基準は、主に以下のような項目から成り立ち、過去12か月間の行動を振り返って複数の基準を満たす場合に「ギャンブル障害」と診断されます。
- 金銭的損失を取り戻すためにさらにギャンブルを行う
- ギャンブルに費やす時間やお金が増加し、生活に悪影響が出ている
- ギャンブルをやめようとしても繰り返し失敗している
- ギャンブルのことばかり考えてしまう(次はどのように資金を工面しようか、過去の勝敗はどうだったか、など)
- ギャンブル行為を隠すために嘘をつく
- 人間関係や仕事・学業が破綻しているにもかかわらずやめられない
- 不安や憂うつなどの気分を紛らわせるためにギャンブルをする
- ギャンブルをするために犯罪行為などを行う(借金、横領、盗み など)
これらの項目のうち一定数を満たすと、軽度・中等度・重度のように重症度が判定されます。
1-2. ICD-11(世界保健機関)
世界保健機関(WHO)の「ICD-11(国際疾病分類 第11版)」では、ギャンブル依存症を 「ギャンブル障害(Gambling Disorder)」 に分類しています。DSM-5と同様に、「コントロール不能」「生活上の重大な支障」「ギャンブルに関する優先度の高まり」などを主な特徴としています。ICD-11でも、個人の生活や健康に大きな損害が生じている場合に診断が下されます。
2. ギャンブル依存症の特徴
2-1. コントロールの喪失
ギャンブル依存症の大きな特徴は、「自分の意思ではもうやめられない」と感じるほどコントロールが効かなくなることです。たとえ周囲から制止されても「あと一回だけ」と繰り返してしまい、借金を増やしたり、生活費に手を付けてしまったりするケースが多く見られます。
2-2. 金銭問題の深刻化
多額の借金を抱える状態になってもなおギャンブルを続けてしまう方が少なくありません。取り返しのつかない借金地獄に陥って初めて周囲が異変に気づく、といったケースも多いです。また、金銭問題が起きるとさらにストレスが増し、そのストレスを解消する目的でギャンブルに走る——こうした悪循環に陥りやすい点も大きな特徴です。
2-3. 嘘や隠しごとの増加
ギャンブルに使ったお金や時間を家族や友人に隠そうとするあまり、嘘を重ねるようになります。結果として信頼を失い、人間関係の破綻や社会的孤立へと繋がっていきます。自分自身も「嘘をついている」という罪悪感に苛まれ、ますますストレスを募らせる要因にもなります。
2-4. 日常生活全般への影響
ギャンブル依存症は、金銭面だけでなく、職場や家庭、友人関係など人生のあらゆる面に深刻な影響を及ぼします。勤務態度の悪化、成績の低下、家庭の崩壊など、取り返しのつかないトラブルを生じやすいのです。
3. ギャンブル依存症は“意志の弱さ”ではない
多くの人は「ギャンブル依存症は意志が弱いから起こる」と誤解しがちですが、実際には脳内での神経伝達物質や報酬系の働きが大きく関わる“病気”とされています。意思だけで簡単にコントロールできる状態ではなく、専門的な治療や周囲のサポートを必要とするケースが多いです。
4. 自覚することの大切さ
4-1. 早期発見と早期対策
ギャンブル依存症は、早い段階で問題を自覚して対策を取れば取るほど、比較的スムーズに回復に向かいやすい傾向があります。借金問題が深刻化したり、周囲との関係が破綻してしまったあとでは、立て直しが一層難しくなるため、少しでも「自分は依存症かも?」と感じたら専門機関や相談窓口に連絡してみましょう。
4-2. 家族や周囲の理解
本人が依存症を認めることはもちろん、家族や周囲も「ただの怠け癖」や「道楽」ではなく、“依存症”という病的状態であると理解しておく必要があります。過度に責めたり、感情的なやりとりを続けると、本人が一層追い詰められ、嘘や隠しごとを増やしてしまう結果になりかねません。
5. 治療・回復に向けたアプローチ
5-1. 専門医療機関・カウンセリング
心療内科や精神科、依存症専門外来などを受診し、医師やカウンセラーと相談しながら治療方針を決めていきます。薬物療法よりも認知行動療法(CBT)などの心理療法が中心となることが多く、ギャンブルに対する考え方・行動パターンを客観的に把握してコントロールを学んでいきます。
5-2. 自助グループ(GA: ギャンブラーズ・アノニマス)
同じ問題を抱える仲間と情報交換をしながら、再発防止のノウハウや心のケアを学ぶ場として有効です。孤独感を抱えがちな依存症回復の道のりで、仲間の存在は大きな支えになります。
5-3. 家族のサポートと金銭管理の徹底
金銭管理や資金アクセスを制限する手段を講じることは、再発を防ぐ上でとても重要です。家族や周囲に協力してもらいながら、キャッシュカードやクレジットカード、口座などを管理する仕組みを整え、ギャンブルに使えるお金を握れないようにするなどの工夫が必要です。
6. まとめ
ギャンブル依存症は、DSM-5やICD-11などの国際的な医学分類でも「依存症・障害」として定義される、れっきとした疾患です。ただの“趣味”や“意志の弱さ”では片付けられないほど根深い問題であり、適切な治療や周囲の理解、サポートが不可欠となります。
- 依存症は意思だけの問題ではない
- 一度の失敗やスリップで自分を過度に責めず、再発防止策を検討する
- 専門機関・自助グループ・家族の支援を活用し、長期的な視点で回復を目指す
「ギャンブル依存症かもしれない」と感じたり、「家族がギャンブルにのめりこんでいる」と感じたら、一人で悩まず、まずは専門機関や公的相談窓口に相談してみましょう。早期に取り組むことで、回復への道筋が開ける可能性は大いに高まります。ギャンブル依存症は、正しいケアとサポートがあれば乗り越えられる病気です。焦らず、あきらめずに対策を進めていきましょう。