「スリップ=本気じゃなかった」ではない。
〜「本気度が少し足りなかった」だけと捉え、次の一歩に活かす〜
ギャンブル依存症からの回復の道を歩む中で、「スリップ(再びギャンブルに手を出してしまうこと)」という出来事は、誰にでも起こりうるものです。スリップを経験すると、多くの人が「やっぱり自分は本気じゃなかったんだ」「意思が弱いんだ」と、自分を責めてしまいがちです。しかし本当に「本気ではなかった」のでしょうか? もしかすると「本気度が少し足りなかった」だけかもしれません。
本記事では、「スリップ=本気ではなかった」という考え方を改めて見直し、スリップを次の一歩につなげるためのヒントをお伝えします。
1. スリップは「本気の有無」を測るものではない
1-1. 依存症は再発リスクが高い病気
アルコールや薬物の依存症と同様に、ギャンブル依存症も再発(スリップ)のリスクが高い疾患です。いったんやめても、ちょっとした心の揺らぎや、生活上のストレス、金銭的なトラブルなどがきっかけで、またギャンブルに手を出してしまう可能性があります。これは「本気ではない」からではなく、依存症という病気の性質ゆえとも言えます。
1-2. 「本気だから失敗しない」は思い込み
「本気で取り組んでいれば、失敗はしないはず」という考え方は、現実的には厳しすぎる基準です。どれだけ本気であっても、思わぬ誘惑や環境要因によって、つい一歩踏み外してしまうことはあります。大切なのは、その失敗をどう捉えて、次の行動につなげるかという視点です。
2. 「本気の度合いが少し足りなかった」とはどういうことか
2-1. “本気度”はゼロか100かではない
人が何かに取り組む時の“本気度”は、0か100かの二択ではなく、常にグラデーションがあります。例えば、80%くらいは「絶対にやめたい」と思っていても、20%は「少しぐらいなら…」という気持ちが残っていることも珍しくありません。スリップは、その数%の隙間から起きる場合もあるのです。
2-2. スリップが教えてくれること
スリップが起こる背景には、必ず「何らかのトリガー(きっかけ)」があります。たとえば、
- 強いストレスや悩みを抱え、逃げ場を探してしまった
- 一時的にお金に余裕ができて、つい魔が差した
- 周囲の人に誘われて断れなかった
- “大丈夫だろう”という慢心があった
スリップが起きると、「なぜスリップしてしまったのか?」を振り返るきっかけが得られます。それを活かして対策を練れば、同じ状況に陥ったときに踏みとどまる可能性を高めることができるのです。
3. スリップを次につなげるための具体的なステップ
3-1. 自分を責めすぎない
まずは「自分はダメだ」と自責の念に囚われるよりも、「今回のスリップから何が学べるか」を冷静に考える時間を持ちましょう。自分を徹底的に否定してしまうと、再スタートを切る意欲や勇気を失ってしまいがちです。
3-2. スリップした場面を振り返る
- 場所: どこでスリップしたのか?
- 時間帯: いつスリップしたのか?
- 心の状態: そのとき何を感じていたのか?(ストレス、焦り、退屈、寂しさ など)
- 動機: 「少しぐらいなら…」「今日だけはいいや」という自己判断? それとも周囲に流された?
詳細を振り返ることで、自分の弱点やパターンが見えてきます。そこに対して事前の対策やサポートを考えることで、再スリップを防ぎやすくなります。
3-3. 支援を求める
スリップは、一人で抱え込まずに周囲へ相談するチャンスでもあります。
- 家族や友人: 正直に打ち明け、再発防止のために協力してもらう。
- 専門医療機関やカウンセリング: 自分一人では解決しづらい要因を探る。
- 自助グループ(GAなど): 同じ悩みを抱える仲間と経験を共有し、具体的なアドバイスを得る。
「スリップしたことを誰かに知られたくない」と思ってしまうかもしれませんが、隠すと再発防止がますます難しくなります。オープンにすることで、まわりが支援しやすくなり、自分の気持ちもリセットしやすくなります。
3-4. 環境と仕組みを見直す
「本気度が足りなかった」原因の多くは、自分の意思だけでなく、環境や仕組みが不十分だった可能性もあります。
- お金の管理を厳密にする
クレジットカードやキャッシュカードを家族や信頼できる人に預ける、生活費口座と貯蓄口座を分ける、など資金にアクセスできない仕組みを強化する。 - ギャンブル関連の誘惑を遠ざける
ギャンブル店やサイトには近寄らない、ネットのフィルタリングを導入する、といった物理的・心理的な障壁を設定する。 - スケジュールを充実させる
ギャンブル以外に楽しめる趣味や運動、交友関係を増やし、“空白の時間”を作らない。
4. 「本気」を高めていくための心の持ち方
4-1. 小さな成功体験を重ねる
「本気度」を一気に高めるのは難しいかもしれません。だからこそ、少しずつ日常の中で小さな成功体験を積み重ねましょう。たとえば、「今日は行きたい気持ちを抑えられた」「友人と遊んで楽しい時間を過ごせた」など、“ギャンブル以外の選択をしてよかった”と感じる経験が増えることで、本気度が段階的に強まっていきます。
4-2. 自分を肯定し続ける
スリップという一度の失敗で、自分の全てが否定されるわけではありません。「また頑張れる」「もう一回やり直せる」という自己肯定感が、ギャンブルをやめ続ける原動力になります。失敗を克服するたびに、むしろ“自分には立ち直る力がある”ことを実感しやすくなります。
4-3. 「なぜやめたいのか」を再確認する
ギャンブルをやめたい理由を改めて明確にすることも、本気度を高めるために重要です。
- 健康面への不安
- 大切な家族や友人に迷惑をかけたくない
- お金を貯めて新しい人生設計をしたい
- 仕事やキャリアに悪影響を及ぼしたくない
日々の選択に迷いが生じたときこそ、自分の「やめたい理由」を思い出すことで、踏みとどまる助けになります。
5. まとめ
ギャンブル依存症の回復過程でスリップが起きたとしても、それは決して「本気じゃなかった」証拠ではありません。むしろ「本気度が少し足りなかった」だけと考え、そこから学んで次の対策を立てる姿勢が大切です。スリップは、欠点や弱点を炙り出す“チャンス”とも言えます。
- 自分を責めすぎず、スリップの原因を客観的に振り返る
- 具体的な対策や仕組みを見直し、環境を整える
- 小さな成功体験や周囲のサポートで本気度を少しずつ高めていく
依存症との闘いは、失敗と成功が交互にやってくるような長い道のりかもしれません。しかし一歩ずつ着実に経験を積み重ねることで、スリップのリスクを下げ、少しずつでも確実に回復に近づくことができます。自分を諦めず、サポートを活用しながら、焦らず着実に前へ進んでいきましょう。